モーターサイクル・ジャーナリスト 中沖 満
Written by Mitsuru Nakaoki

 これと、思ったバイクとは長く付き合うぼくとしては、人様とのお付き合いも全く同じである。 タイムトンネルの井上社長とは、「こういう店を引き受けた仲間がいる」と30年来の畏友に紹介された13年前からのお付き合いだ。 だいたいぼくは旧車ブームなどというのは実体がないものだと思っているから、タイムトンネルなるお店が13年も続くとは正直思っていなかった。そのことを井上さんに話すと、店長をはじめメカニックと、お客様のお蔭、という答えが返って来た。

 見かけはいいが中身がどうも・・・といった不満をよく耳にするこの世界で、お客がお客を紹介してくれるということが、この13年の信用を物語るようで、うれしくなった。

イラスト:中沖 満
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 このところ井上さんが力を入れているのはトラとBSAの”再生新車”だ。これは出来るだけ当時の新品パーツを使って現地のアランとビルの、ふたりのベテランメカが組み立てるというもので、日本の英車ファンのレベルの高さを井上さんが口が酸っぱくして教えたせいで、今ではふたりの仕事は申し分のないところまで来ているから、最近は仕事の指図よりも、ふたりの愚痴を聞きに行くようなもの、と井上さんは笑う!
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Norton ES-II [500] Single
年金制度の進んだ英国でもジェネレーションギャップやら何やらと愚痴るのは同じなんだ、と何か安心すると同時に、ふたりの職人と井上さんとの心の交流が垣間見られて、これもうれしかった。ビルがBSAを勤めあげたことを自慢なら、アランはメリデン最後の日までトラを組んでいたことが自慢だ。このふたりの労をねぎらうため、井上さんはふたりを日本に招こうと考えているようだ。それが実現したとき、ぼくは愛用のトラに乗ってアランに会いに行こうと思う。ぼくのサンダーバードはメリデン工場製のラストモデル、それも76.0×71.5の数少ないショートストロークだから、あるいはアランの手がかかっているのかもしれないという楽しい空想がそれに加わるのだ。
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MV AGUSTA 750S
 たかがバイク・・・である。しかしバイクには人と人を結びつけるという、ほかには滅多にない効能がある。井上さんと13年、それはタイムトンネル13年と全く同じ歳月。そう思うとここでも、人と人のことを思わずにはいられないのである。

(中沖 満 プロフィール)

1932年3月 東京都麹町生まれ
東京麹町の”わたひき”で、自動車塗装35年
退職後、フリー文筆生活の傍ら、ハラダコレクションでレストアに従事、若手を育成中。

KAWASAKI H1 [machIII] 500

1975年10月 浅間ミーティングクラブ設立
1985年5月 浅間記念館完成

現在 同クラブ理事長
(その他 総務庁交通安全対策室2輪車活性化委員  '90年代のマツダを考えるプロジェクト)

(主な著書)
力道山のロールスロイス(山海堂)
ぼくのキラキラ星(世文社)
続 ぼくのキラキラ星(グランプリ出版)
ぼくの素敵な仲間たち(グランプリ出版)
サーキットの軌跡(グランプリ出版)
オートバイグラフティ(CBSソニー出版)
懐かしの軽自動車(グランプリ出版)
クルマのバイクの塗装術(グランプリ出版)

(主な連載)
ムック、鉄と心とふれあいと、他多数

(現在の愛車)
GUZZI ルマンIII-992
A65 Thunderbolt
BMW R65LS
フリーウェイ
CB125T Special
シャリー
Mach III

Egli-Vincent 1000 [V-twin]